eスポーツ広報・PRの仕事:役割、必要なスキル、未経験からのキャリアパス
eスポーツ業界は近年、急速な成長を遂げており、多様な働き方の機会が生まれています。その中でも、チーム、企業、大会といった組織の「顔」となり、情報を正しく、魅力的に発信する役割を担うのが広報・PRの仕事です。
eスポーツ業界における広報・PRの重要な役割
広報(Public Relations: PR)とは、組織と社会(ステークホルダー:顧客、従業員、株主、地域住民、メディアなど)との間に良好な関係を築き、維持するための活動全般を指します。eスポーツ業界における広報・PRは、一般的な企業の広報活動に加え、eスポーツならではの特性への理解と対応が求められます。
主な役割としては、以下のようなものが挙げられます。
- ブランドイメージの構築と向上: チームや大会、企業の理念や魅力を効果的に伝え、ポジティブなイメージを確立・維持します。
- 情報発信と透明性の確保: 公式発表、イベント情報、選手の活動などをタイムリーかつ正確に発信し、ステークホルダーとの信頼関係を築きます。
- メディアリレーションズ: 報道機関との良好な関係を構築し、メディア露出の機会を創出します。プレスリリースの作成・配信、取材対応などが含まれます。
- コミュニティとの関係構築: 熱狂的なファンコミュニティとの双方向コミュニケーションを促進し、エンゲージメントを高めます。SNS運用はその中心的な手段の一つです。
- 危機管理広報: 不祥事や問題発生時に、迅速かつ誠実な対応を行い、ブランドイメージへのダメージを最小限に抑えます。
- スポンサー・パートナーシップのサポート: スポンサーやパートナー企業との連携を強化し、共通の目標達成に貢献します。
具体的な仕事内容
eスポーツ業界の広報・PR担当者の仕事内容は多岐にわたります。所属する組織(プロチーム、ゲームパブリッシャー/デベロッパー、大会運営会社、関連機器メーカー、エージェント会社など)によってその比重は異なりますが、以下のような業務が含まれます。
- プレスリリース作成・配信: 新規事業、イベント開催、選手加入などの重要な情報をメディア向けに作成し、配信します。
- メディア対応: 記者会見の準備・運営、取材のセッティングや立ち合い、質疑応答への対応を行います。
- SNS運用: 公式アカウントを通じて、チームの活動、選手の日常、大会の速報、舞台裏の様子などを発信し、ファンとの交流を深めます。投稿内容の企画、画像・動画素材の選定、コメントへの返信なども行います。
- Webサイトの更新・管理: 公式サイトにニュースリリースやブログ記事などを掲載し、常に最新の情報を提供します。
- 広報資料の作成: 会社概要、事業内容、ファクトブックなどの資料を作成し、必要に応じて提供します。
- イベントの企画・運営: メディア向け発表会やファンイベントなどを企画し、実行します。
- 社内外の情報収集と分析: 業界の動向、競合他社の活動、メディア報道、SNS上の意見などを収集し、自社の広報戦略に活かします。
- 危機発生時の対応: 問題発生時には、事実確認、対応方針の決定、対外発表、メディア・SNS対応など、一連の危機管理プロセスを実行します。
求められるスキルと経験
eスポーツ業界で広報・PR担当者として活躍するためには、以下のようなスキルや経験が求められます。
必須スキル
- 高いコミュニケーション能力: 社内外の様々な立場の人と円滑なコミュニケーションをとる能力は不可欠です。メディア、ファン、選手、社内スタッフなど、相手に合わせた適切な対応が求められます。
- 優れた文章作成能力: プレスリリース、ニュース記事、SNS投稿文など、分かりやすく正確で魅力的な文章を作成する能力が必要です。
- 情報収集・分析能力: 業界内外の情報を幅広く収集し、その中から必要な情報を見つけ出し、分析する力は広報戦略の立案に役立ちます。
- 危機管理能力: 予期せぬ問題発生時にも冷静に状況を判断し、迅速かつ適切な対応をとる能力が求められます。
- 基本的なPCスキル: Word, Excel, PowerPointといった基本的なオフィスソフトの操作は必須です。
eスポーツ業界特有のスキル・知識
- eスポーツに関する基礎知識: プレイされているゲームタイトル、主要な大会、プロチーム、選手の動向など、業界全体の流れを理解していることが重要です。
- ファンコミュニティへの理解: eスポーツファン特有の文化、言葉遣い、関心事などを理解していると、効果的なコミュニケーションが可能になります。
- SNSマーケティング知識: 各SNSプラットフォームの特性を理解し、ターゲット層に響くコンテンツを作成・発信するスキルは非常に重要です。
あると役立つスキル・経験
- 語学力: 特に英語力があると、海外チームや選手、グローバルな大会運営会社とのやり取り、海外メディアへの情報発信などで有利になります。
- デザイン・動画編集スキル: 魅力的なSNS投稿やプレス資料を作成する上で役立ちます。
- プレゼンテーション能力: 記者会見や社内報告などで、情報を効果的に伝えるために必要です。
- 他の業界での広報・PR経験: 他の業界で広報・PRの実務経験がある場合、そこで培った知識やスキルはeスポーツ業界でも大いに活かせます。
- ライティングやSNS運用経験: 学生時代のブログ運営、個人SNSでの発信活動、インターンシップなどでライティングやSNS運用に関わった経験もアピールポイントになります。
未経験からeスポーツ広報・PRを目指すには?
「eスポーツ業界での広報・PRは未経験だけれど、挑戦したい」という方もいるかと思います。他の業界からの転職や、新卒でこの分野を目指すことも可能です。具体的なステップとしては、以下のようなアプローチが考えられます。
- eスポーツ業界への理解を深める: まずは、様々なゲームタイトル、主要なチームや選手、大会、業界のニュースなどを積極的にチェックし、知識を深めましょう。観戦だけでなく、業界構造やビジネスモデルについても学ぶことが重要です。
- 関連する経験を積む:
- ライティングや情報発信の練習: eスポーツに関するブログを書く、SNSで情報を発信する練習をするなど、文章を作成し、他者に伝える経験を積みます。
- 他業界での広報・PR経験: もし可能であれば、まずは他業界で広報やマーケティング、SNS運用などの実務経験を積むことは非常に有効です。基本的なスキルやビジネス感覚を身につけることができます。
- 学生団体やコミュニティ活動: 学生団体やファンコミュニティで広報やイベント告知などを担当する経験も、実務の基礎となります。
- スキルアップを図る: ライティング講座、SNSマーケティングセミナー、危機管理広報に関する書籍などで、専門知識やスキルを体系的に学びます。
- インターンシップやボランティアに参加する: eスポーツ関連企業やイベントでのインターンシップやボランティアに参加することで、業界内の雰囲気を肌で感じ、実務を学ぶ機会を得られます。人脈形成にもつながります。
- ポートフォリオを作成する: これまでに作成した文章(ブログ記事、プレスリリース模倣品)、SNS運用実績、イベント企画書など、自身のスキルや経験を示すものをポートフォリオとしてまとめます。
- 積極的に情報収集し、応募する: 業界特化型の求人サイト、各企業の採用ページ、SNSなどで常に最新の求人情報をチェックします。WantedlyなどのビジネスSNSも活用できます。
eスポーツ広報・PRのキャリアパス
eスポーツ業界の広報・PR担当者のキャリアパスは様々です。
- 広報部内での昇進: ジュニア担当者からスタートし、経験を積んでシニア担当者、マネージャー、そして広報部の責任者へと昇進していく一般的なパスです。
- 専門性の深化: メディアリレーションズの専門家、危機管理広報のスペシャリスト、ソーシャルメディア戦略の担当者など、特定の分野に特化してキャリアを築くことも可能です。
- 他部署への異動: 広報・PRで培ったコミュニケーション能力や業界知識を活かして、マーケティング、イベント企画・運営、事業開発といった関連部署へ異動するケースもあります。
- 所属先の変更: プロチームからゲームパブリッシャーへ、または大会運営会社から機器メーカーへといったように、異なる種類の組織に移ることで、新たな経験や視点を得ることもできます。
この仕事の魅力と現実
eスポーツ広報・PRの仕事には、大きな魅力と同時に、認識しておくべき現実もあります。
魅力
- 情熱を共有できる環境: 好きなゲームや応援するチーム、熱狂的なファンに囲まれて仕事ができるのは大きなやりがいです。
- 新しい文化を創る一員: まだ新しい産業であるeスポーツの文化や価値を社会に広めていく、という創造的で社会的な意義も感じられます。
- 多様な関係者との出会い: メディア関係者、国内外のプロゲーマー、チームオーナー、企業経営者など、普段なかなか出会えないような多様な人々と関わる機会があります。
- グローバルな視点: eスポーツはグローバルな産業であり、海外の事例を学んだり、国際的なイベントに関わったりする機会も豊富です。
現実
- 業務範囲が広い: 特にスタートアップや小規模な組織では、広報だけでなくマーケティングやコミュニティ運営など、複数の役割を兼任することも少なくありません。
- スピード感が求められる: 業界のトレンドやニュースは移り変わりが早く、迅速な情報収集と発信が求められます。
- 突発的な対応が多い: 選手の不祥事や大会トラブルなど、予期せぬ問題が発生した場合、夜間や休日であっても迅速な危機管理対応が必要となることがあります。
- 労働時間が不規則になる可能性: 大会期間中やイベント前後など、業務量が増加し、労働時間が不規則になる場合があります。
- 成果が数値化しにくい面もある: 直接的な売上貢献が見えにくい業務であるため、効果測定や評価が難しい側面もあります。
まとめ
eスポーツ業界の広報・PRの仕事は、単に情報を発信するだけでなく、組織の顔としてブランドイメージを構築し、様々なステークホルダーとの良好な関係を築く、非常に重要かつやりがいのある仕事です。コミュニケーション能力、文章作成能力といった基本的なスキルに加え、eスポーツへの深い理解と情熱が求められます。
未経験からこの分野を目指す場合でも、関連する経験を積んだり、スキルアップに励んだりすることで道は開けます。常に業界の動向を追い、学び続ける姿勢が重要です。この記事が、eスポーツ広報・PRというキャリアに興味を持たれた方の、最初の一歩を踏み出すためのヒントとなれば幸いです。